この記事は Claude on SonicGarden の記事です。ソニックガーデンのプログラマが、Claude Codeの活用について書いています。 #claude_on_sonicgarden

「あの話、どこにあったっけ」と思うことが、ちょっと増えていた。

仕事のタスクは連絡ツールや社内メッセージに、気になった記事はDiscordの個人メモやXのブックマーク、RSSリーダーに、家のことは家族とのLINEに。一つひとつのツールはどれも便利なのに、ぜんぶ合わせるとどこにも何もない、という奇妙な状態になる。検索しても出てこない。出てきても文脈が切れていて、もう一度組み立て直さないと使えない。

この1ヶ月、僕はその状態にちょっとした手を入れてみた。Obsidianで管理しているノート置き場 ― といっても要は1つのディレクトリにMarkdownを並べているだけのもの ― に、Claude Codeを「常駐する秘書」として住まわせる、という運用を始めたのだ。アシスタントが直接ファイルを読み書きし、僕との会話を通して情報を整え、次のセッションでも記憶を引き継いでいく。「メモを取る」のではなく「秘書と話す」感覚に近い。

ObsidianとAIエージェントの組み合わせ自体は、別に新しい話じゃない。ただ、1ヶ月通しで使ってみると、設計次第で動き方がずいぶん変わることがわかってきた。「動く」と「毎日ちゃんと働いてくれる」のあいだには、思った以上に距離がある。結果として、思いつきの回収も、翌日への引き継ぎも、以前よりずっと楽になった。今日はそのあいだを埋めるために何をしていたかを書いておく。

秘書の人格を定義する

最初にやったのは、秘書に名前と人格を与えることだった。PERSONA.mdという1枚のファイルに、口調・性格・振る舞いの方針を書く。一人称、こちらの呼び方、踏み込みの強さ、避けてほしい言い回し。半分は遊びの気持ちだった。けれど運用してみると、この遊びが思った以上に実務に役立った。

人格を定義しておくと、応答のトーンが安定する。「もう少しフランクに」「真面目めに」と毎回チューニングしなくても、定義の範囲内で返ってくる。「過剰に踏み込まずに、行動を促す側に回る」みたいな方針まで書いておくと、こちらの好みに沿った反応が最初から返ってくる。

たかが口調、と思っていたが、あるとないとで使い心地はずいぶん違う。

ルールはぜんぶファイルに書く

Claude Codeは、作業ディレクトリのCLAUDE.mdをセッション開始時に自動で読み込む。ここに運用のルールを集約しておくと、毎回同じ指示を出さずに済む。

僕がCLAUDE.mdに書いているのは、たとえばセッション開始時にやってほしい手順だ。今日の日付をdateコマンドで取りに行く、Googleカレンダーを覗く、context/ディレクトリ配下の「今の状況」と「未完了タスク」を読み込む、それを並列でやる。これだけでも毎朝の立ち上がりが数秒で済むようになった。

もうひとつ書いているのは、やっていいこと・確認してから動くこと・絶対にしないこと、の三段階の決め事だ。

最初はこの線引きを書かないまま走らせていた。そうしたらある日、軽い相談のつもりで投げた質問のあとで、秘書が既存のノートを大規模にリライトしてしまった。本人(?)としては「整理しました」のつもりらしいが、こっちの意図とはまるで違う書き換えで、戻すのに地味に時間がかかった。以来、「ここから先は確認してね」をちゃんと文字にしている。書いてみてわかったのだが、決め事が明文化されていないと、こちらも秘書もどこまで踏み込んでいいか判断できない。逆に書いてあれば、その範囲では迷わずに任せられる。

それから、地味だけどとても大切なのが「日付や曜日の話をするときはdateコマンドを叩く、頭で計算しない」というルール。AIに曜日や時間の暗算をやらせるとそこそこの確率で外すので、ちゃんと調べてから返事してね、と1行書き足すだけで応答の信頼度が変わる。

めんどうな段取りはコマンドにする

.claude/commands/の下にMarkdownを置くと、それが/コマンド名として呼び出せるスラッシュコマンドになる。手順を自然言語で書いておけば、それがそのまま手順書として走る。専用の言語もコードもいらない。

たとえば/captureは、粗い思いつきをとりあえず投げ込む受け口だ。「来週までに税金を払う」とか「この記事あとで読みたい」と投げれば、tasks/にファイルが作られて未完了タスクの索引にリンクが追加される。ほかにも、週次の棚卸しをする/weekly-review、その日のログを清書して日報にする/daily-report、粗いアイデアをステップに割る/decompose、動きの止まったタスクを掘り起こす/stale-check、ノート置き場をgitに上げる/sync、といった具合だ。

ひとつひとつは大したことをしていない。ただ、手順を覚えていなくていいし、形式が毎回そろう。あとから自分の整理を読み返すとき、形がそろっているというだけで、ずいぶん読みやすい。コマンドを増やすたびに、自分が日常的にやっている小さな段取りが外に出ていく感じがあって、頭の中の「やらなきゃリスト」がひとつ減る。これがけっこう気持ちいい。

忘れる前に、書き残してもらう

Claude Codeのセッションはステートレスだ。立ち上げ直すと、前回の文脈は基本的に失われる。これを埋めるのが日々の作業ログ ― いわゆるDaily Noteだった。

daily/2026/2026-04-27.mdといった形式のファイルに、その日に起きたこと・決まったこと・報告されたことを都度追記してもらっている。朝のセッションで相談したことが、夕方の別セッションでもそのまま拾える。翌朝、新しいセッションを立ち上げたときも、秘書が前日のDaily Noteを読みに行くので、「昨日の続き」を理解した状態で会話が始まる。これに加えて、もう少し中期の文脈 ―「今週やっていること」「最近の関心事」「リマインドしてほしいこと」― を別ファイルに置いている。短期の連続性をDaily Noteが、中長期の背景を別ファイルが受け持つ二段構えだ。

セッションをまたいで秘書が覚えているように見えるけれど、覚えているのはAIではなくファイルのほうだ。秘書に記憶があるように振る舞ってもらうために、こっちが記憶の置き場所を用意しておく、くらいの関係に近い。そう思っておくと、変に期待しすぎず、変にがっかりもしない。

もうひとつ地味に便利なのが、書くのはClaude Codeに任せつつ、読み返すのはObsidianのUIをそのまま使えることだ。MarkdownのままObsidianで開けば、見出しもリンクもきれいに表示されるし、[[...]]の記法はノート間リンクとして機能する。出先ではモバイルアプリで開けるし、検索やタグも普通に使える。書く側と読む側で別のツールが立っているというのが、使ってみるとちょうどよかった。

ある朝の風景

朝、ノート置き場のディレクトリでClaude Codeを立ち上げる。CLAUDE.mdに書いた開始手順が走り始める。日付の取得、文脈ファイルの読み込み、カレンダーの確認、前日のログの把握 ― 数秒待つあいだに、コーヒーを淹れる。

戻ってくると、今日の段取りがひととおりまとまっている。スケジュール、期限の近いタスク、前日からの繰り越し、「今週まだ/weekly-reviewやってませんね、どうします?」みたいな提案。紙の手帳をめくるのとも、口頭の報告を受けるのとも違う、その中間くらいの体験だ。

日中は、思いついたこと・決まったこと・頼まれたことを雑に投げる。普通の会話で「◯◯日までにこのタスク進めておきたい」と伝えるだけで、ルールに沿ってファイルが作られる。完了報告も「あれ終わったよ」で済む。手元の操作はほとんどない。

夜、必要なら日報を作って、gitに上げる。クロージング処理がコマンドになっているので、最後の数十秒で終わる。一日の終わりに散らかったままにならない、というのは思ったより気が楽だ。

1ヶ月、使ってみて

いちばん実感しているのは、運用を続けるほどこっちの指示が減っていくことだ。最初は「これはタスクだからtasks/に入れて」と明示していたのに、数日経つと文脈から判断して正しく処理してくれる。文脈ファイルやDaily Noteに情報が積もるほど、新しい相談も「既存の文脈の延長」として読まれる。最近は「これやりたい」と一言投げるだけで、関連する古いアイデアや進行中のタスクとの接点まで指摘してくる。

モデルは1ヶ月前と変わっていない。育っているのはこっちの環境のほうで、ファイルが積もるぶんだけ応答が良くなる。プロンプトを毎回工夫するより、土台を整えておいたほうがあとから自分が楽になる。

副次的に、ルーティンが定着した。週次レビュー、日報、定期巡回 ― ひとりでやってると忘れがちなものが、セッション開始時に「前回から7日経ってますが」と振ってくる。押しつけがましくはないけど見落としにくい、ちょうどいい間合いで思い出させてもらえる。

おわりに

ObsidianとClaude Codeで個人ナレッジを運用する。構成だけ取り出せば、たぶん目新しくはない。それでも1ヶ月通して動かしてみると、4つの要素がそれぞれ別の役を持っていて、どれか欠けたら回らなかったんじゃないかと思う。

  • 人格 ― 応答のトーンと距離感を安定させる
  • ルール ― 踏み込んでいい線を明文化する
  • コマンド ― 段取りを外に出す
  • Daily Note ― 短期と中長期の文脈を保持する

AIを賢くしようとするより、AIに読ませるファイルのほうを整える。それだけのことだったけれど、それだけでノートとのつき合いかたはだいぶ変わった。しばらくはこの形で続けるつもりでいる。